3.一族の歴史と独特の文化
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敷地内の「沈家伝世品収蔵庫」では初代から15代までの歴代作品を鑑賞できる。

 

一族の歴史と独特の文化

 

16世紀末、朝鮮人技術者を連行した薩摩藩主・島津義弘は、彼らを手厚くもてなしました。士族の位を与え、門や塀を構えることを許し、農業や兵役の義務を免除しました。その代わりに朝鮮名を続け、言葉や風習も朝鮮のものを維持するように命じます。朝鮮人居留区を設けることで朝鮮との物流を幕府に許可させるためのもので、事実上の貿易=外貨獲得の方法だったのです。特に陶家が数多く残る美山地区では江戸時代まで韓国語が使われ、独特の発展を遂げました。有田、高取、萩など、同様に朝鮮人技術者を陶祖とする焼物の産地は少なくありませんが、故国の文化をここまで色濃く残す産地はないと言われます。

十四代は、昭和43年に発表された司馬遼太郎の小説『故郷忘じがたく候』の主人公としても有名です。小説では日本と韓国という二つの祖国に揺れる心情の描写もあり、四百年という歴史に潜む苦難、時間の重さを感じさせます。十四代は日韓の交友関係改善に尽力され、平成元年には日本人初の大韓民国名誉総領事就任、また平成10年には国際的イベント『薩摩焼400年祭』を成功させました。

その十四代も、2019年に逝去。『薩摩焼400年祭』の翌年、十四代存命中に襲名していた十五代沈壽官氏は、2021年、駐鹿児島大韓民国名誉総領事に就任。そして陶房では、当代のご子息が十六代を継ぐべく修業中だとか。陶技のみならず一族の歴史と文化を引き継いで、30名近くの陶工を抱える窯元の経営を維持しながら、一子相伝の系譜はさらに続いていきます。

沈壽官窯の作品には、420年もの歴史と、朝鮮と薩摩が磨き上げた重厚な文化、そして若き陶工たちの清廉な息吹が込められているのです。

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