空間操作

盆栽で四次元空間を紡ぐ

五葉松づくりで有名だった故・阿部倉吉翁は次のように語っています。「空間には美しさがあります。盆栽は丸くつくってはなりません。枝の長短太細、枝分かれ等々、一枝一枝を十分に働かせ、木振り、枝振りを見せてハズミを出すことです」。
倉吉翁はそうした空間の美に対する考え方を『空間有美』という四文字に込めました。
幹模様や枝配りだけを見せるのでなく、枝と枝との間にある『間』を大切にしなければならないとは、多くのプロ作家が言っていることでもあります。間の取り方ひとつで、盆栽の個性が生かされもすれば死にもするのです。
針金をかけて枝を振ったり下げたりするのは、もちろん樹形の輪郭を整える意味があるのですが、それと同時に、空間をあけたり詰めたりして『間』を調整するという意味もあります。「枝間があきすぎる」とか「詰まりすぎる」という表現を聞いたことがあるでしょう。結局、枝操作とは空間の操作に他なりません。
試しに、樹形構想や枝の選択をする際、どこに枝がほしい……という考え方を、どこに空間をあけようか、という考え方に一度変えてみてください。そうすればきっと空間の持つ意味が分かるでしょう。枝振りだけでなく、空間を見せるということが、少しでも実感できると思います。
盆栽はたて・横・奥行を持つ三次元の立体です。さらに時代という要素が上乗せされますから、実際には四次元の芸術品ということができます。枝操作によって四次元空間を操る盆栽は、まったく他に類を見ない特異な世界です。これは誇りに思っていいのではないでしょうか。

 

感性を磨き、きたえて盆栽と向き合う

さて、テーマ1から12、初歩の初歩から盆栽についての説明を続けてきました。しかしこれらの事柄はすべて基本中の基本でしかなく、盆栽を育て、つくり、楽しんでいこうとすると、基本より圧倒的に応用範囲のほうが広いというのが実際です。基本をふまえながら、どれだけ応用を利かすことができるかで、あなたの盆栽ライフの広がりが違ってきます。
初歩のうちは、何でもまず物まねから始まります。樹形構想にしても、よくできているとされる盆栽や、名樹名木といわれるものを参考にして、その姿を真似ることからスタートします。こんな姿につくるにはどういう培養をして、どういう針金かけをすればよいか、他人の技術を盗み取るところからスタートします。これは決して悪いことではありません。先人から学ぶための常道です。
しかし、物まねだけにとどまってしまうと、あなたオリジナルの盆栽は生み出せません。他人と違う奇妙な盆栽をつくれと奨励しているわけではありませんが、盆栽が1本1本、唯一無二の存在であるように、愛好家一人一人独自の盆栽があって当然ではないかと考えるわけです。百人の愛好家がいれば、百通りの盆栽があってよいでしょう。
独自の盆栽を見出すためには、素材の個性を見つめる目がなければなりません。素材の持つ隠れた美しさに気付くことができる感受性がなければなりせん。また、その美しさを磨き上げてあげるテクニックも必要です。
結局、盆栽づくりにおいて、いつも試されているのはあなた自身です。だからこそ、自身のセンスを磨き、鍛え上げなければなりません。多くの人が「いい盆栽だ」と言うから、いい盆栽なんだと決めつけていませんか。高額で取り引きされたと聞くから、いい盆栽だと決めつけていませんか。有名なプロが手がけたからいい盆栽だと決めつけていませんか。そういったまわりの意見や評価に流されず、自分だけの価値観を持つことが盆栽には可能です。
旧来の固定概念にとらわれず、やわらかい頭で盆栽を見つめ、感じること。そうした感性豊かな愛好家が増えることを願って、この教室を終わりにします。